「とむこさん、いいお医者さん知らない?」
「どうしたんですか?」
「主人が希死願望が強くて転院先を探しているのだけど見つからないの」
「それは難しい問題ですね」
実際、僕は良い医者なんて知らない。でも医療機関に入院していて転院先が見つからないというのはかなり厳しい状況なのだろう。
数年。そのお客さんに会うたびにご主人の様態が気になった。こちらからその話題を出すことはなかった。出せなかった。ナイーブすぎる
「とむこさん、実は〇〇に移住することになったの。この前主人が亡くなって葬儀の時に声が掛かって。お手伝いしてもらえるかしら?」
僕は何となくご主人の治療がうまくいって話題に出なかったのだと想像していたのだが、現実にはそうではなかった。ご主人は希望を叶え、奥さんと子供は別の世界で生きることになった。救いは移住先が奥様の以前からの好きな場所だった。そこが逃避先として選ばれたらなら遠すぎてとても不便な場所に感じる
僕はこのやりとりのあと、とmこさんが作った夕食をつまみながら酒を飲もうと思った。本来なら今日は酒を飲まない日なのだが、酒用ではない食事のおかずをつまみに酒を飲んで過ごしたかった。飲みながらの食事は時間がかかるので、予想通り子供に度々食事の邪魔をされ遅々として進まなかった。そして、それは僕の望んだ時間だった
小さな閉じた世界で幸せを感じながら酒を飲みたかった。他人の不幸を目の当たりにして、自分のしたいことは今できる幸せを目一杯感じることだった。うまく表現できないのだが、自分の幸せを確かめるのではなく、いつ無くなるか分からない幸せをあるうちに身に刻みたという欲望を強く感じた
お昼に晴れていると水を大量に消費します
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