とむこの悪口帳「別館」

大人になるということ

小学4年生だったか、担任が辞めて男性教師が赴任してきた。

闊達な性格で子供の興味を引き出す才能に長けていた。そして興味を示す生徒に対して学問の楽しさを伝える力も持っていた。僕にとっては授業を面白くしてくれる貴重な人で、色んな興味をきちんと知識に昇華させてくれた。

でも彼は保護者から評判が良くなく、赴任の翌年には特別学級の生徒の担任に左遷?された。依怙贔屓がひどい、というのが苦情のメインだった。それは子供の僕にも思い当たることがあった。彼の話に興味を持ち彼に付いてくる子とそうではない子の扱いは明らかに違った。

彼には知識を教える情熱があった。手を抜くようなことはしなかった。でもその熱意に興味を示さなかったり付いてこれなかった子たちの存在を鬱陶しげに扱っていた。


ある時、彼の熱意の対象外の子供を怒鳴りつけた。烈火のように怒り狂った。教室内が真空のようになった。その直後、彼は自分のお気に入りの生徒(要は僕だ)に満面の笑みを向け授業を再開した。

子供の僕には顔がコロコロ変わる阿修羅像の様に見えてしまい、ただただ恐怖に震えた。子供の感情なんて1秒や2秒で切り替えることが出来ない。だから彼の表情や態度が秒毎に変わってしまうのがまるで化け物のように思えた


それから30年経った


どうだろう、僕は彼になった。彼になってしまった。僕は知ったのだ。感情と表情なんて一緒である必要なんて無いのだと。表情は感情を示す道具ではないことを。特に「怒る」というのは大人にとって一つのパフォーマンスに過ぎない。声を荒げたり、相手を威圧するのは自分の要求を通すためのテクニックなのだ。

それが大人になることなんだ



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