とむこの悪口帳「別館」

救急車

僕は救急車を自分のために呼んだことはない。交通事故で呼ばれて乗せられたことはある。救急車というのは非常事態で使うものであって、人生で一度も乗らずに済むのならそれが一番だと思う。気軽に呼んで良いものではない、という認識をしている。お客さんで少し精神的にヤバい人がいた。感情の変化が激しく対応していて怖かった。そのお客さんがある時店舗前で倒れた。駆け寄ると意識がなかった。救急車を呼ぶよう頼み、僕は付き添った。救急車は10分ほどで到着した。さて、僕はお客さんが何故倒れたのか分からないので救急隊員にどう説明しようか頭を巡らせた。しかしながら到着した救急隊員は僕を一瞥もせず「〇〇さん、大丈夫?」と声を掛けながら体を揺さぶった。僕の説明は不要であった。彼女は救急車の常連さんだったのだ。既に倒れた理由を把握しているだろう救急隊員は急ぐ様子もなく彼女を担架に乗せ受け入れ先を探す。救急車の回転灯と野次馬の面々がいなければ、運送業者が荷物を引き取りに来て車に積み込む風景とさほど変わらなかったかもしれない。このようにしてトラブルは運ばれていった。後日ご主人的な人が店に現れた。先日の件で挨拶に来たのかと思ったら様子がおかしい。話を聞いてみると「自分は彼女から毎日のように暴力を受けているあなたも十分に注意したほうが良いできれば関わらないほうが良いそして僕がここに来たことは彼女には絶対に言わないでほしい」ということであった。店というものは来客を拒むことは基本的に難しい。危険な人物に「来ないで欲しい」と言った後、何が起きるか想像してみるとその難しさが分かるだろう。そもそも危険な人物は出禁にしたところでそんな事は起きなかったような顔をしてまた来てしまうのだ。だからアドバイスはありがたいのだけど、僕にはどうすることも出来なかった。でも幸運なことに彼女は生活保護を受けやすい市町村を探して引っ越していった。「〇〇市なら生活保護が受けられるでしょ」と彼女は僕に言い残して店を後にしたのだが、僕の生きている世界とあまりにも違うのではいともいいえとも言えなかった。笑顔でサヨナラするだけだった




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