とむこの悪口帳「別館」

気持ち悪い

今の団地で生活を始めて10年近くになる。引っ越すのが趣味みたいな人間なのだが居心地がよく居着いてしまった。

下の階には僕が入居する以前から老夫婦が住んでいた。とても静かに暮す人たちで彼らが発する物音は聞いたことがない。ドアの開け閉めの音すら僕には分からなかった。なのでとても居心地がよく、この状況がずっと続けば嬉しいなと思っていたのだが、高齢者なので年を追うごとに弱っていくのが見て取れた。歩き方が遅くなり、杖をつくようになり、押し車が必要になった。携帯型の酸素ボンベが必要になってから数カ月後、彼らは引っ越していった。それが去年のことだ。

空室になって半年後、新しい住人が入居し女性が挨拶に来た。恐らく最初に僕の部屋へ来たのだろう。挨拶用の粗品を沢山抱えていた。上下左右だけでなく斜めの人たちにも挨拶するのだろうか?そんな律儀そうな人なので、以前の老夫婦同様物音は殆ど聞こえなかった。家族構成も分からない位静かだった。

うるさい人達が引っ越してきたら嫌だなと思っていたが、予想は外れ快適な生活は続いた。しかし2ヶ月後、気付いたら彼らは引っ越していなくなっていた。僕の仕事帰り、いつも部屋の電気が煌々と点いていたのが数日前から消え「あれ?」と思って郵便受けを見たらその部屋にはテープが貼られて入れられなくなっていた。音もなく、彼らは消えてしまった。

引っ越しはとても疲れる。お金も掛かる。だから2ヶ月で引っ越すのは余程の理由があるはずだ。僕が引っ越しを決める時は100%騒音問題である。だから最初、自分の生活音に問題があったか思い返したが、新入居者の素性が分からないので通常より気を付けていたからそうではあるまい。思い当たることは無かった。

また下の部屋が空室になり4ヶ月が過ぎた。ある日とmこさんが「下の階の電気が点いていたよ」と言い、新たな住人が入居したことを知る。今度は特に挨拶はなかった。僕自身、引っ越しの挨拶はしないので特に思うことはない。賃貸のメリットは誰とも仲良くなる必要が無いことだ。すれ違った時に挨拶だけする関係を保てれば良い

そして昨日、下の階の郵便受けにテープが貼られていて引っ越したことを知る。また2ヶ月足らずで居なくなってしまった。自分のように居着き率が高い棟でこんな短期間で引っ越すのは初めてだ。考えても答えが出ない問題はとても気持ちが悪い。
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